赤峰 清香先生
アパレルメーカーでバッグや小物の企画、デザインを手がけた後、フリーランスで、メーカーやショップの企画・デザイン、サンプルメイクを行う。書籍や雑誌への作品提供の他、ワークショップやヴォーグ学園の講師。帆布やリネン、皮革などの天然素材を使い、使いやすさや丈夫さを考慮したシンプルなデザインが得意。著書は「仕立て方が身に付く手作りバッグ練習帖」(ブティック社)、「きれいに作れる帽子」(主婦と生活社)など。
なぜソーイングをはじめられたのですか。
私の母は洋裁の先生でしたが、結婚後にやめて、自宅でお客様からオーダーをいただき、洋服の仕立てやお直しなどをしていました。ですから小さい時からミシンが常にそばにある生活で、母のそういう姿を目にして、同じようなものづくりの世界に入ったのだと思います。
納期の前などは大変そうでしたが、母も自分の好きな仕事だから楽しかったと思います。仕事以外でも、私の洋服とか、中学のセーラー服も作ってくれました。楽しみながらものづくりをしていたという記憶がありますね。
先生の作品の特徴、デザインへのこだわりについて。
「ある程度の年月が経っても古くならない、時間に耐えられるデザイン」というのが一番にあって、その中でも潔いデザイン、ベーシックでありながらそれ自体に存在感があるバッグ作り。何より長く愛用していただけるデザインですね。
そして、長く使うためには、時間に耐えられる素材が大切です。帆布は長い時間に耐えられるし、長く使っていくと経年変化を楽しめるというか、ちょっとクタッとしていくところもいい味わいなので、帆布がメインのデザインが多くなっています。
そのため、使うのは職業用ミシンがメインになりますね。
オートクチュール1000を使ってみていかがでしょう。
まず、音が静かなのにびっくりしました。あとは、縫いが安定していてミシン目がきれい。私は太い糸を使うことが多いのですが、ボビンは普通の職業用ミシンより大きいので、下糸のなくなる回数がぐっと減るのもありがたい。ワークショップでも一番重要なところで下糸がなくなると、皆さんもうすごいショックみたいで。(笑)
バッグ、ポーチ、帽子と一通り作ってみましたが、糸締まりがいいと思います。たぶん最初に糸調子を合わせてくださったと思うのですが、もう最初からバッチリ。何より安定感があって、ミシン目の裏側まできれいなのもよかったです。バッグの袋口の両脇は、縫い代の厚みが重なるので、分厚くなると木づちで叩いて縫い代をつぶしてから縫う場合もありますが、そういったことも全くせずに、普通に縫うことができました。
本格的な革のバッグの仕立てはまだですが、持ち手に2.2ミリ厚ぐらいの本革を使って試してみました。革って難しいイメージがあるようですが、このミシンは特に何もせずに(笑)、しっかり縫えるので、難しいことは何もない。ただ、糸調子を合わせたりは最初にしなければいけないですが、それさえしっかり設定したら、あとは針とか糸を革用に変えれば、全然問題ないと思います。
オートクチュール1000はどんな方にお勧めですか。
ある程度ソーイングに慣れて、より本格的なものづくりをしたい、しっかりとしたものづくりをしたい方には、特にお勧めです。本革を使ったものづくりをされたい方にもぜひ使っていただきたいです。
それからこのミシンは、黒いマットな感じで、ちょっとクールというか、カッコイイ!もしかしたら、ナチュラルテイストなインテリアより、ちょっと男前なインテリアをお好みの方などは、このデザインがお好きではないでしょうか。
先生にとってソーイングの魅力とは何でしょう。
ありすぎてひと言では言えないけれど、何を作ろうと考えるところから始まって、デザインだけでなく、素材選びや色選び、サイズとか、いろいろ考えていく。そういった過程もソーイングと私は考えていますが、裁断は少し大変だけど、そこさえしっかりこなせば、ミシンで形にしていく作業が、どんどん楽しくなります。少しずつ形になっていくと、ああ、あともう少しだと気持ちも高まるし、いざ完成した時の充実感もすごいです。
また、私の場合、ワークショップ、講座、レッスンで、ソーイングを楽しめる時間を共有できます。そこで思いもつかなかった発想を参加者のみなさんからいただくなど、刺激も大きい。ですから、単にものを作れるから楽しいだけでなく、皆さんといろいろな時間を共有したり、教えられることも楽しい。また、ミシンと向き合っている時間は何より無になれます。ちょっと嫌なことがあっても、いざミシンに向かうと、全て忘れて集中できる。もうひたすらカタカタ、カタカタとやっているときが、いい時間です。
自分なりにアレンジできるのもいいですね。既製品だとそのものが全てですが、ソーイングは、自分で好みにアレンジできるのも魅力。また、自分だけのもの、これしかないので、他の人とかぶることもないですし。
発想の原点というか、イメージはどんなところから。
今までたくさんのバッグを作ってきたので、もうネタは尽きて(笑)。
私のつくるものって本当にベーシックで、はやりというものを意識していない。ある程度決められた形があって、そこからどういうサイズ感にしようか、どういう素材を作っていこうか、どういう“こなし”を加えようか、という繰り返しです。自分が使ってみて、こんなつくりにした方が使いやすいと思ったら改善しますが、ベースはもう変わらないです。
いろんな作品がありますが、一番好きなタイプは、普通のベーシックなトートタイプで、どの本にも提案させていただいていますね、サイズ感を変えたり、“こなし”を変えたり、配色を変えたりして。一番の原点は、ベーシックなトートバッグにある。「こういう帆布のトートバッグなら赤峰さん」と思われるようになりたいとずっと思っていたので、そこにこだわりを持ってずっと提案してきたこともあると思います。
お仕事の話をお母さまとされたりしましたか。
私が30歳のときに母は他界して、本格的にお仕事をしてからのアドバイスはもらえませんでした。一番記憶に残っているのは「気になるんだったらやり直せばいいじゃない」という口癖。私も納期があると、多少ミシン目が曲がったりして、気になりながら済ませてしまったりがなくもないですが、そういう母の言葉を思い出して、やり直すことがあります。
スーツの仕立てなどもやっていたので、娘の私が言うのも何ですが、母はプロだった。一つ一つの作業を怠らずに、アイロンをしっかりかけて割るとか、しつけをするとかを常にやっていました。なので、時間を省かずに手をかけたものは、仕立てのいいものに仕上がるのは、母のものづくりへの姿勢を見て学んだことかもしれません。
スーツでは、ステッチひとつとっても、襟回りを時間をかけて手でかがっていました──そんな母の姿を想うと、私も気が抜けないなという部分はあります。でもね、母が生きていた頃より、今は便利な道具がものすごく出回っているので、それらも活用しながら、時間を有効に使いながら、こだわるところはこだわって……。
お母さまもきっと喜ばれていますね。
どうでしょう。応援してくれていればいいんですが。
うれしそうに見てらっしゃると思いますよ。本日はありがとうございました。
ジェットブラック